地域課題へ専門知を活用する力とはなにか 【2】|弘前大学 地域創生本部

地域特性を活かした施策
地域活性化施策の企画・立案

地域課題へ専門知を活用する力とはなにか 【2】

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農学生命科学部 食料資源学科 食料バイオテクノロジーコース 石川隆二先生に聞く

石川隆二

石川 隆二

弘前大学 農学生命科学部 食料資源学科 教授

専 門 植物遺伝学、植物育種学
研究テーマ DNA考古学、植物遺伝資源、イネ起源、有用植物
授 業 環境と資源、植物育種学
育種・ゲノム学実験、統計学の基礎など

地域課題へ専門知を活用する力【ルーブリックより】

  • 体系的な専門知を活用し、実効性のある地域課題分析と解決策提案を行える

4.基礎学問の重要性

石川隆二

石川:「地域課題への専門知の活用」について議論するときに、決して忘れてはならない論点として、基礎学問の重要性というポイントを挙げたいと思います。

 基礎学問と言うのは、考え方の基礎を教えてくれるものです。また基礎学問で取り扱う概念は一般性が高く、我々に様々なヒントを与えてくれます。

 例えば不確定性原理(ある粒子の位置を正確に測定するほど、その粒子の運動量を正確に計算することができなくなるといった現象についての理論)は、地域課題に直接的に役に立つわけではありません。しかし、その発想は応用できる。地域の一側面を正確に把握した結果、別の側面が不透明になることはありえます。不確定性原理を知っている学生が「不確定性原理の例に倣えば、こんなことはよくあることだ。地道に、多角的にデータを取って行って、全体像を徐々に浮かび上がらせよう」といった前向きな気持にもなれるかも知れない。

 知識とは様々な形で活用されるものであり、その引き出しを十分に持っている必要があります。「私は地域課題に強い関心があるから、地域課題のことだけ勉強しよう」などという発想はよくありません。教養と専門、基礎と応用、普遍と地域、学生には様々な知識をバランスよく身につけるようにして欲しいと思います。

 このような「大きい眼」を持った人として、中村佐助氏がいます。彼の『探検博物学』は学生にもおすすめの本です。

5.一つの地域で役に立つことは、別の地域でも役に立つ。一歩ひいた眼を持つことができれば。

———石川先生の言われる通り、地域志向人財の養成は「地域課題の解決に資する人財を育てるためには、地域課題だけを扱ってはいてはならない」というジレンマを抱えながら進める必要があると思います。このジレンマを避けてしまうと「地域課題だけに関心のある視野狭窄タイプ」か「地域課題に全くの関心がない評論家タイプ」のどちらかに陥ってしまうことになるように思われます。

石川隆二

石川:私は地域志向教育には可能性を感じています。一つの地域で役に立つ事柄は別の地域でも役立つからです。青森県で胴割れ対策に取り組んだ経験が、新潟の農協で活かされるかも知れない。新潟で温暖化について研究した結果が、青森での育種に活かされるかも知れない。このような例はたくさんあるはずです。

 ただし、ここで一つ指摘しなければならないことは、ある地域で役に立つ事柄を別の地域で役に立てるためには、「一歩ひいた眼」を持つ必要があるということです。例えば胴割れの問題をより広い文脈—例えば育種学—の中で再解釈する。このような反省的な眼を持つことで、青森県の胴割れ対策で学んだ知識や経験が、育種学を補助線として、別の地域でも活かされることになります。

———石川先生のお話を通して、「地域課題への専門知の活用」というコンセプトが、専門知を活用して「問題を解決」するという過程のみならず、専門知を活用して「問題を再解釈する」するという過程も内包したものであるということに気付かされた思いがします。COC推進室としては、学生には石川先生の言葉を踏まえて、大学で様々なことを学び、「一歩ひいた眼」を築きあげて欲しいと思います。

(文中敬称略)
(聞き手・編集:COC推進室 西村君平)

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