人文社会科学部 社会経営課程 企業戦略コース 高島克史先生に聞く
リーダーの役割【ルーブリックより】
- 目標の実現に向けてチームを組織し、メンバーを動かすことができる
4.リーダーの役割に関する深い学びとリフレクションの重要性
———PBLを通した学習の成果は、どうやって確認することができるのでしょうか。「私にはリーダーシップがあります。大学でリーダーの役割を経験してきました」と自己申告しても、中々周囲の納得を得ることは難しいように思います。
髙島:『地域とともに育む大学生の就業力』では、学生がリーダーシップ等の汎用的能力を身につけたかどうかを知るために、自己回答型のテスト(例:あなたは◯◯ですか)によって学生がリーダーとしての役割を身につけているか検証しています。この検証でも、ある程度、学生の学びを測定することはできます。ただし、実際に学生と直接関わっている者として言えば、自己回答型のテストでは学生がPBLを通して学んだことの全てを知ることはできないのではないかとも考えています。
例えば、先ほど上げた悪戦苦闘していたチームの中に、非常に優れたリーダーシップを発揮していた学生がいました。彼女はメンバーの意見を調整し、チームとしてのまとまりを何とかして築きあげようとしていた。そんな彼女ですから、当然、テストのスコアも高くなるかと思ったのですが、これが予想に反して低いスコアが出てしまった。なぜかと言えば、それは彼女が自分自身に課したハードルが非常に高いからです。彼女はリーダーの役割について非常に深く考え、そして深くチームにコミットしていた。その結果、自分にあまりにも高いハードルを課してしまい、自分を低く評価してしまった。
もちろんこの評価は妥当な評価とは言えない。彼女は実際にリーダーシップを発揮できるからです。しかし、ここで「君は自分に厳しすぎる。君はリーダーシップをしっかりと発揮している」と言っても彼女は納得しないでしょう。
———しかし,教員としては彼女の深い学びをどうにかして掬いあげて,次の学びにつなげたいわけですね。
髙島:そのために、PBLではリフレクションの機会を設けています。リフレクションは反省・省察・振りかえりと翻訳されますが、要するに、自分の行動や経験を省みて、そこにどんな意味があったのか,再考することです。PBLで言えば,学生がそこまでの活動を通して,自分の強みや弱みを分析する場面がこれにあたります。リフレクションでは、誰かに他の人に与えられた立派な言葉で自分を語るのではなく、PBLを通して自分が経験してきたことに基づき、地に足の付いた自己分析を行うよう指導します。これによって、教員の手助けを借りて、学生は自分の学びの意味を知ることになります。
また、PBLにおけるリフレクションと同様に、PBLで培った経験を別の課題で応用してみるのも重要です。我々が行った『地域とともに育む大学生の就業力』について言えば、就職活動の場面が最も典型的な例です。
就職活動の中で,学生は自分のこれまでの経験をふりかえるよう求められます。中には「あなたはリーダーシップを発揮したことありますか?」と直接的に聞かれることもあるでしょう。こうした問に直面した時に「そういえばPBLでリーダーシップについて色々と学んだぞ」と気づくことになります。
集団面接などでグループワークを実施することもありますが、この局面も実感の時になります。学生は「こういうグループワークについてはPBLで同じようなことをやったな」「グループワークの進め方についてはそれなりに自信が持てるぞ」という形で、学生自身が自らの体験の意義を改めて知ることができます。
5.リーダーを育てる楽しさ・リーダーになる楽しさ
髙島:学生のリフレクションの場面というのは、学生が自らの学習成果を実感する場面であるとともに、教員が学生の成長を目の当たりにし、自らの教育実践の意味を知る場面でもあります。学生がリーダーシップについての肌で学んで言っている様子を見るのは教員にとっては大きな喜びです。
もちろん学生にとっても、自分がリーダーとして行動できるようになるのは、楽しいことだと思います。卒業生の中には、就職後にPBLでの経験の意味を改めて実感しているケースも少なくないようです。先日も、卒業生が研究室に来てくれて、PBLを経験したおかげもあって、仕事に対しての中長期的な見通しを持って当たれるようになった、ペース配分を考えられるようになったと語ってくれました。
———これからリーダーとしての役割を学ぼうとする学生、あるいは「自分なんかがリーダーになれるのか」と不安に思っている学生にとって、卒業生の声は非常に心強いものだと思います。学生たちがリーダーとしての役割を学ぶにあたって、手助けとなるような文献などをご紹介頂けますか。
髙島:まず『知的複眼思考法』をおすすめします。リーダーとして人と人をつなぐためには、現実を多角的に見て、様々な考え、様々な事実が存在することを知らなくては行けません。そのための手がかりが、この本には書かれています。
後は『戦略は一杯のコーヒーから学べ』も良い本です。私の専門が経営戦略論ということもあるのですが,会社のリーダーが普段どういうことを考えているのかを身近な問題を切り口に解説してくれる本です。
(文中敬称略)
(聞き手・編集:COC推進室 西村君平)