文理の基礎的な教養とはなにか 【2】|弘前大学 地域創生本部

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文理の基礎的な教養とはなにか 【2】

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人文社会科学部 文化創生課程 木村宣美先生に聞く

木村宣美

木村 宣美

弘前大学 人文社会科学部 文化創生課程 教授

専 門 英語学
研究テーマ 英語学・言語学(統語論・意味論)
生成文法理論、英文法
授 業 英語学B、言語文化論Aなど

文理の基礎的な教養【ルーブリックより】

  • 文理を問わず、幅広い分野の基礎地域を体系的に学修している

3.教養における経験の重要性

———知性の教育と言えば、近年の大学教育では汎用的能力(generic
skills:思考力・発想力、チームワーク、対人能力等の特定の専門領域や職業領域に限定されない能力)が話題です。「どのようにして教養教育を通して、汎用的能力を育成していくか」ということが大きな課題にもなっていますが、この点について木村先生のお考えをお聞かせいただけますか。

木村宣美

木村:もちろん正課の授業をしっかりと受けてもらえれば、その中で多種多様な知識や考え方に出会いますので、総合的・複眼的な思考は徐々についていくことになるはずです。

 また、教員としては複雑な思いもなくはないのですが、正課外の活動に一所懸命に取り組むことでも総合的・複眼的な思考は身につくのではないでしょうか。対象がなんであれ、一本筋を通してやり通す。この中で学ぶものは決して小さくないでしょう。

 教養教育の古典的な教育方法として、学寮における共同生活があります。オックスフォードやケンブリッジなどのイギリスの伝統的な名門大学では、学生を一つの寮にいれて、共同生活・共同活動を経験させることを重視しています。学寮で学生たちは生身の人間としてぶつかり合い、その中で多様な知識や考え方に出会います。この教育方法も教養教育のエッセンスである「多様な知識や考え方を身につけていく」という教育論を背後に持っています。

 同様に、バイトでもサークルでも部活でも良いですから、なにか一つのことをやり通して欲しい。そのなかで、学生は色んなことを知り、色んな人に出会うでしょう。この過程で学んだこともある種の教養であって、例えば将来就職した後で色んな場面で色んな人間と協力して仕事をやりぬいていくための基礎になるはずです。

4.引っ込み思案な学生のために

———対人能力やコミュニケーション力、社交性のようなものは、個人のキャラクターとも密接に結びついています。例えば汎用的能力の養成に資すると言われるアクティブ・ラーニング(学生が能動的に活動する教育方法の総称。授業にグループワークなどを演習形式で取り入れる方法が一般的)を導入しても、「ノレない」学生も少なくありません。こうした学生にはどういう風にアプローチしていけば良いでしょうか。

木村宣美

木村:確かに得手不得手はあります。私の授業でもグループワークを行うことがありますが、中々輪に入っていけない学生はいます。そういうときは気さくに「どうした?」と学生に声をかけたり、グループワークの中に混ざれるように他の学生に働きかけたりしています。

 もちろん無理強いは良く無い。無理強いではないとしても、内気な学生にグループワークを課すことは、酷なこととも言えるかも知れません。しかし、教員が背中を押すことで、内気な学生もチームとして働く楽しさに気づくかもしれません。学生にこのような気づきを与えることも、教員の仕事の一つかと思っています。

5.発見の興奮

———先生の話を聞いていると、木村先生は大学での学びの中にある楽しさというものを大事にしてらっしゃるように思います。

木村宣美

木村:中島平三先生の『発見の興奮—言語学との出会いー』という本があります。この本は、言語学を学んでいく楽しさをテーマにしたものです。是非学生におすすめしたい本です。

 発見の興奮は、学問の本質であって、言語学に限ったものではありません。ワクワクさせられて、刺激を与えられて、もっと学びたくなる。こういう気持ちが学問の中核にあるということを中島先生の本は教えてくれます。

 文理を問わずに、色んな世界を学生に見せてあげる。そうすると、学生は「あ,こういう世界があるんだ」と驚くことになります。これこそが大学における教養教育のミッションなんじゃないかと、私は思っています。

———近年、汎用的能力の育成、アクティブ・ラーニングの実施という大きな教育改革の中で、教員の役割も変わっていくという論調が強くなってきています。この文脈で言う新しい教員の役割は、「壇上の賢人から寄り添う案内人へ(Sage
on the Stage to the Guide on the
Side)」
という言葉で表現されます。上から知識を教えこむのではなく、横から学生の学びをサポートせよというわけです。しかし木村先生の話を聞いていると、「寄り添う案内人」という役割は、新しい役割というよりも、大学教員の古くからの役割の一つだったことがわかります。

 木村先生の他にも、弘前大学には自然な形で「寄り添う案内人」の役割を担ってきた教員がたくさんおられます。そして、こういった先生方は「地域学ゼミナール」や「学部越境型地域志向科目」のようなアクティブ・ラーニング型の授業を通して、学生たちを「あっと驚く学問の世界」に連れて行ってくれることでしょう。学生には、是非とも「地域学ゼミナール」や「学部越境地域志向科目」に積極的に参加して、様々なタイプの驚きを味わって欲しいと願っています。

(文中敬称略)
(聞き手・編集:COC推進室 西村君平)

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