専門的な知識・技能とはなにか 【2】|弘前大学 地域創生本部

地域特性を活かした施策
地域活性化施策の企画・立案

専門的な知識・技能とはなにか 【2】

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理工学研究科(理工学部 地球環境防災学科) 葛西真寿先生に聞く

葛西 真寿

弘前大学 理工学研究科(理工学部 地球環境防災学科) 教授

専 門 宇宙論
研究テーマ 理論宇宙物理学、相対論的宇宙論
授 業 天文学、地球熱力学、地球環境学概論I、
数学の基礎など

専門的な知識・技能【ルーブリックより】

  • 専門知を体系的に理解し、その発展に貢献できる

4.質の高い問題解決の経験

相対性理論

葛西:もちろん物理学を通して養われるのは、探究心だけではありません。私は、物理学は「つぶしが利く」学問だと考えていますが、それは物理学を学ぶことで、質の高い問題解決の経験を積むことができるからです。

 物理学と一言で言ってしまうとよくわからないかもしれませんが、研究は実際にやっていることは問題解決の連続です。一例を挙げてみましょう。私の専門の相対論的宇宙論は、文字通りアインシュタインの相対論に基づいて、天体力学的な現象の解明を行う学問です。相対論は非常に優れた理論ですが、それでも天体力学的な現象の全てを十分に説明し尽くせるわけではありません。その一つに天文単位(地球と太陽の距離を1とする単位)が、次第に伸びている現象(天文単位の時間的増加)があります。細かい説明は省きますが、従来の理論に基づくと天文単位は縮むと予想されていました。しかし、最先端の観測技術を用いて測定した結果、天文単位が伸びているということが明らかになりました。この理論と現実のギャップが物理学上の問題の一つです。この問題を解明するべく、我々は頭を絞っています。

 天文単位の時間的増加は、言わばアインシュタインが残した宿題です。学校の先生が教科書にしたがって出した宿題とは難易度も違えば、面白さも違います。このような大学ならではの高度な問題に取り組む経験は非常に重要なことだと思います。たとえ公務員になろうとも、システムエンジニアになろうとも、そこで行うことは問題解決に変わりがないので、大学で培った質の高い問題解決の経験が役に立つはずです。

5.専門性を極める中で、社会から必要とされる人財へ

葛西真寿

葛西:天文単位に関する研究は、教育者としての私にとっても、非常に興味深いケースでもあります。

 私の卒業生の一人が、天文単位の増大について面白い説明を提案して、その論文を国際学会に投稿したことがあります。残念ながら掲載には至らなかったのですが、その論文がScienceなどの一般科学誌に注目され、報道ベースで世界に発信されることになりました。その結果、Wikipediaにその学生の研究が紹介されることになったのです。

 このケースは、我々に「何が社会から評価されるのか、事前に知ることは不可能だ」ということを教えてくれています。専門性を極めていく中で、思いがけない形で社会から高く評価されることもあるということは覚えておいても良いと思います。

 地域のニーズや企業の要望にしたがって、大学生のうちから、様々な活動に取り組むのは確かに大事です。ただし、その経験が、卒業後に高く評価されるかどうかは、誰にもわかりません。逆に自分自身の関心にしたがって、何か一つのことを深く深く学ぶ経験もやはり重要です。こうして身につけた知識や技能は、今すぐに役に立つものではないかも知れませんが、いつか役立つかも知れません。これも誰にも分からないことです。局所的な活きた体験と普遍的な高度な知識の双方をバランスよく身につけて欲しいと思います。

6.普遍的な知を学ぶ

葛西真寿

葛西:普遍的な知識は、抽象度も高いため、具体的な実践の場面ではなかなか役に立たないと思われる人もいるかも知れません。しかし、普遍的な知識ほど役に立つものはないとも言えます。

 そもそも「いま役に立つ知識が、将来も役に立つ」という話は、現実の社会ではめったにありえません。だからこそ、普遍的な知識や技能を教える必要があります。普遍的な知識や技能は、それを活用する者がその知識や技能を理解し、応用する力を持っていれば、時代や場所を越えて役に立つものだからです。

 普遍的な知を学ぶためには、時間や場所を越えて高く評価されているような古典的書物をしっかりと読んでおくことも重要でしょう。物理学分野では、アインシュタインの相対論が文庫本で読むことが出来ます。手軽に入手できるので、ぜひとも学生たちに読んでおいて欲しいと思います。また、大学院に進学して、特定の分野をつきつめて探求していきたいと考えている学生はマックス・ウェーバーの『職業としての学問』を読んでおくと良いかも知れません。

(文中敬称略)
(聞き手・編集:COC推進室 西村君平)

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